総合数理セミナー'99


4月22日 水田 義弘
正則性,調和性から monotonicity へ

正則関数の実部(虚部)が調和であることは,コーシー・リーマンの関係式から導かれるが,この事実は奇跡的である(ファインマン物理学 III)。調和関数は次元に関係しないで定義され,実解析において基本的な役割を果たす。調和関数ばかりでなく偏微分方程式の解の性質のうち,最大値・最小値の原理はきわめて重要である。この性質を満たす関数は monotone と呼ばれる。この講演では,線形だけでなく非線形偏微分方程式の解が monotone となるような例を示す。

5月13日 宇佐美 広介
楕円型偏微分方程式の解の振動定理

 n 次元ユークリッド空間の外部領域で定義される関数を考えましょう。それが無限遠点のある近傍において定符号になるとき、この関数は「非振動的」といわれます。非振動的でない関数は「振動的」といわれます。振動的な関数とは、無限遠点に発散する零点列を持つ関数、と言い換えてもよいわけです。このお話では、与えられた楕円型方程式の解が振動的であるための必要/十分条件について概説します。楕円型方程式は放物型方程式の時間定常解が満たす方程式ですから、そちらの方面の研究にも少しは寄与するトピックだと思います。

5月27日 吉田 清
Keller-Segel方程式系に対する相似解 (1)

粘菌の形態を決定する方程式に Keller-Segel による放物型方程式系 $$\left \{ \begin{array}{ll} \displaystyle {\partial u \over \partial t} = \nabla \mbox{\boldmath $\cdot$} ( \nabla u - \chi u \nabla v) , \\[3mm] \displaystyle \varepsilon {\partial v \over \partial t} = \Delta v -\gamma v + \alpha u \\[3mm] \end{array} \right. \leqno{\mbox{\rm (KS)}}$$ がある.この方程式は日本においては永井敏隆(広大・理学部)により研究が進められ,現在では各地で盛んに研究が行われている.本講ではこの方程式に対する自己相似解について考察してみたい. 詳しくは村本直己および内藤雄基と解析中である.

6月17日 村本 直己
Keller-Segel方程式系に対する相似解 (2)

粘菌の形態を決定するKeller-Segel方程式系の自己相似解について、特にその存在性や解の球対称性について概説します。Keller-Segel方程式系の導出については前の講演で吉田清先生が詳しく触れられたので、今回はその自己相似解の存在性にかかわる周辺を紹介します。

7月1日 寺本智光
2階楕円型方程式系の正値全域解について

2階楕円型方程式系 $$\left\{ \begin{array}{l} \Delta u=h(x)v^\alpha\\ \Delta v=k(x)u^\beta \end{array} \right.$$ の正値全域解の存在と非存在について考えます。この方程式の正値全域解の存在については様々な研究結果がありますが、非存在についてはほとんど結果がありません。この講演では、主に正値全域解の非存在について話したいと思います。

7月22日 栄伸一郎(横浜市大・理)
反応拡散方程式とパターンダイナミクス

私たちが日常見る自然の中には、色々な形があります。例えば、揺らめく炎の形や小さな生き物たちの集まりがなすコロニーパターン、あるいは、動物の表皮や貝殻の表面にある美しい模様などです。どうしてこのような形が生じるのでしょうか。炎が発生するための化学反応や、模様ができるための細胞内における色素の生成、といったミクロな構造のメカニズムは、これまでの科学によってかなり解明されてきました。しかし、そうしたミクロなものが無数に集まり、全体としてある秩序を持った形という構造が、どうして発現してくるのか、ということについては、まだ、殆ど分かっていません。その秩序形成のメカニズムを、反応拡散型のモデル方程式を用いて表現し、パターンの持つダイナミクスを理論的に解析する方法を紹介したいと思います。

8月5日 観音 幸雄(愛媛大・教育)
2種競争系の定常解の分岐構造について

Lotka-Volterra 競争系の定常問題 $$ \left \{ \begin{array}{l} 0 = \varepsilon^2 \, u_{xx} + u \, (1 - u - c \, v), \\ 0 = \varepsilon^2 \, d \, v_{xx} + v \, (a - b \, u - v), \quad x \in (0,1), \\ u_x = v_x=0, \quad x = 0, 1 \end{array} \right . $$ を扱い,$\mu = u(0)$ を分岐パラメータとしたときの解の分岐構造について考える.

10月28日 竹内 潔
Cauchy Kovalevskayaの定理の拡張をめぐって

「複素超曲面上に任意に与えられた正則関数に対して、それを初期値にもつ(非特性な)偏微分方程式の正則解がただひとつ存在する。」というのが、古典的な Cauchy-Kovalevskaya の定理である。 この非常に有名な定理は、柏原により任意の線型偏微分方程式系(D-加群)にまで拡張され、今日では Cauchy-Kovalevskaya-柏原の定理と呼ばれている。 本講演では、この定理の種々の一般化の研究の紹介および、講演者自身により最近得られた知見について報告する。 特に「初期値が特異性を持つ場合に解の特異性は陪特性帯に沿って伝播する。」という浜田の定理のシステム(D-加群)への拡張について話す予定である。

11月11日 江端 満彦
SU(1,1) におけるHardyの定理について

SU(1,1) におけるHardyの定理の概説とその周辺の話題についてはなす予定である。たくさんのHardyの定理があるが、ここでは以下の定理の拡張である。\\ Th. \quad $\bf {R}$上の可測関数$f$が$\alpha>0,\beta>0,C>0$に対して以下の2条件 $|f(x)| \le Ce^{- \alpha x^2}$ $| \hat{f} (y) | \le Ce^{- \beta y^2}$ の条件を満たしているとする。ここで、 $\hat{f}(y)\!=\!(1/\sqrt{2\pi})\! \int_{-\infty}^{\infty}\! f(x)e^{-\sqrt{-1} xy} \,dx$ とおく。このときもし$\alpha \beta > \frac{1}{4}$ならば、 $f=0$ a.e.である。

12月2日 二村 俊英
Existence of functions in weighted Sobolev spaces

The aim of this talk is to determine when there exists a quasicontinuous Sobolev function $u \in W^{1,p}({\bf R}^n;\mu)$ whose trace $u|_{{\bf R}^{n-1}}$ is the characteristic function of a bounded set $E \subset {\bf R}^{n-1}$, where $d\mu(x) = |x_n|^\alpha dx$ with $-1< \alpha < p-1$.

12月16日  冨樫 一巳
マツ林における松枯れのメカニズムとそのモデル化

 材線虫病はアカマツやクロマツの萎凋病であり,日本や中国などで激害型のマツ枯れを引き起こしている。本病の病原体はマツノザイセンチュウであり,マツノマダラカミキリやカラフトヒゲナガカミキリという昆虫によって伝播される。本病に関わるマツ−線虫−カミキリの相互関係をまず示して,日本海側の1林分内における本病の広がり方の特徴およびカミキリ密度と材線虫病発生率の関係を示す。次に,マツ林における本病の発生を記載するモデルを示し,野外データからパラメータを推定する。解析の結果,本病が広がるためには,ある閾値以上のマツ(宿主)密度が必要であること,また,宿主密度が閾値以上であっても,ある閾値以上のカミキリ(媒介者)密度が必要であることが示された。また,このモデルのパラメータ値を変えるだけで,太平洋側の1林分の枯れの時間的パターンを再現できた。これらのことから,激害型の松枯れをマツ−カミキリの相互関係によって記載できることが示された。

1月20日 橋本 哲(早大・理工)
非線形楕円型方程式の解の存在・非存在について

  非線形楕円型方程式の研究では、解の存在・一意性・正則性について議論されることが多々あります。しかしながら、それらの性質は、方程式の非線形項や領域の形状にかなり支配されます。
今回の講演では、領域(N次元単位球)の境界上で発散する係数関数を非線形項にもつ場合について考えます。特に、正値解の存在・非存在が、係数関数の発散する度合により、どのようになるかを紹介したいと思います。

2月10日 宇佐美 広介
Riccati 不等式のLiouville 型定理への応用

  外部領域(例えば、N次元空間全体)上で楕円型方程式を考えましょう。予め無限遠点 での増大度を指定しておいて、実は、「そのような増大度を持つ解は自明なものに限 る」とか「そのような増大度を持つ解は存在し得ない」というようなことを主張する 定理を Liouville 型定理と呼びます。(広くそう呼ばれてます。)「N次元空間上定 義される上に有界な劣調和函数は定数に限る」というのが先駆的、かつ有名な例です 。今日は、一般化された Riccati 不等式と呼ばれるもの(広くそう呼ばれてるわけで はなさそう)を援用して、準線形楕円型方程式の Liouville 型定理を導きます。


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